研究テーマ
総合研究テーマ
山から海へ:世界をつなぐスマートリバー管理
食料安全保障、水供給、河川環境、そして流域における地域のレジリエンスは、人為的および自然的要因の両方によって脅かされています。
日本、ベトナム、フィリピン、アフリカ、そして世界各地の流域における水と土砂の連結性は、ダム建設、灌漑拡大、森林伐採、砂の採取、土地利用の変化といった人間の活動によって変化しています。
たとえば、ベトナムのメコンデルタ地域(VMD)では、地盤沈下や収縮といった現象がさらなる脆弱性をもたらしています。
京都大学防災研究所・関東志研究室では、変化する気候および複合災害条件の下で、水理インフラ、水資源システム、河川生態系、農業生産、そして地域社会のレジリエンスの実現を目指しています。
私たちは、スマートモニタリング、スマートな緩和策や戦略の導入、ダムおよび貯水池システムの高度化、さらに河川生態系の改善を目的とした自然な土砂動態の回復・保全を通じて、この目標の達成に取り組んでいます。
私たちの主要な関心領域は、流域スケールでの洪水および土砂管理にあります。
京都大学防災研究所・関東志研究室では、洪水および土砂災害リスクの軽減に向けた国際的な貢献として、中東および北アフリカ(MENA)地域における「ワジ(wadi)」の鉄砲水に関する研究を開始しました。
「ワジ」とは、アラビア語で乾燥した河川敷や谷を意味し、まれに発生する強い降雨時に河川流域のように振る舞う地形を指します。
MENA地域の乾燥地帯は一般に降水量が少なく高温の砂漠地帯ですが、近年の気候変動により、破壊的な洪水災害の発生頻度と強度が増加しています。

また、関東志研究室では、日本における洪水および土砂管理に関する知識と実践を、フィリピン、ベトナム、シンガポール、マレーシアなど東南アジア諸国と共有しています。
このような国際的な連携を通じて、多様な河川流域やワジ流域における防災・減災および水資源管理の高度化に向けた戦略を提案しています。

最後に、私たちは、国レベルあるいは国境を越えたスケールにおいても、ほとんどの河川およびワジ流域が本質的に同様の洪水・土砂管理の課題に直面していることを認識しています。
私たちの目標は、各地域の特性に応じつつも他の地域へ応用可能な、統合的流域管理の新たなアプローチを開発することです。

研究テーマ分野
1.NEXUS-フィリピン:極端な気候変動下における持続可能な水資源およびダム管理のための統合的戦略(3S-WaRM)
本研究では、気候変動によって引き起こされるスーパー台風に伴う豪雨や異常渇水に関連する極端洪水を予測するため、長期的なアンサンブル降雨予測と気候アンサンブル予測データベースを統合します。
その目的は、マガットダムの効果的な洪水緩和運用を高度化し、カガヤン川流域における研究成果をフィリピンの地域社会と共有するためのウェブプラットフォームを構築することです。
具体的には、日本側のチームがリモートセンシングデータや衛星画像を活用してダム運用のシミュレーションを行い、全球気候予測を地域および流域スケールへダウンスケーリングします。
一方、フィリピン側のチームは、これらの研究成果を政策計画に反映し、水資源安全保障指標やカガヤン川流域の地方自治体向けマスタープランの策定を進めます。
両国チームの協働を通じて、水文予測に基づく水資源管理の新たな指針を確立することを目指します。
さらに、これらの指針を実践するための人材育成を推進するとともに、将来の気候変動による極端気象の増加に対応する適応策の強化にも取り組みます。

2.土砂移動環境の回復に向けた自己調整型土砂供給に関する基礎研究(3S-Project)
日本および世界各地において、ダム貯水池での土砂堆積が進行し、貯水容量の減少が深刻化しています。一方で、下流域への土砂供給量の減少は、河川環境の悪化や沿岸部への土砂供給喪失による海岸線後退など、深刻な環境劣化を引き起こしています。
このような課題への対策として、貯水池内に堆積した土砂を下流に意図的に供給する「土砂補給(sediment replenishment)」が近年広く導入されています。
しかし、補給後の土砂動態およびその管理に関する研究は依然として限られており、効果的な土砂環境回復プロジェクトの普及には課題が残されています。
さらに、気候変動の影響により、極端な降雨イベントの頻度と強度が増加し、土砂を多く含む洪水などの土砂災害リスクが高まっています。
環境回復と治水の両立、すなわち「土砂環境の再生」を実現するためには、河道内の土砂移動量だけでなく、その「移動のタイミング」を適切に制御し、動的平衡を維持することが不可欠です。
ヨーロッパ、特にスイスで広く実施されている「河道拡幅(river-widening)」の概念は、防災と生態系の回復を両立させる自然共生型の重要なソリューションとして注目されています。
スイスで最初の河道拡幅プロジェクトは、1991年にエンメ川(Emme River)で実施され、深刻な河床低下の緩和を目的として行われました。
このプロジェクトは、河床の安定化を達成するとともに、水生および河岸の生物多様性を向上させ、洪水管理と生態系管理を統合した先駆的なモデルを確立しました。
これらの国際的な事例を踏まえ、本研究では、河道拡幅、土砂補給、および自然共生型ソリューションを組み合わせた統合的アプローチを検討し、日本の河川における土砂動態の回復と持続的な管理の実現を目指します。



