京都大学 防災研究所 水資源環境研究センター 社会・生態環境研究領域

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台風19号災害

台風19号災害を踏まえた下記の記事が日経新聞(11月14日付朝刊)に掲載されました。

「水害の猛威に備える(複眼)ダム放流のルール 個別に 京都大学防災研究所教授 角 哲也氏」

掲載記事 

ダムには水道や農業、水力発電などに単独利用する利水ダムと、治水目的も含む多目的ダムがある。日本には約3千カ所のダムがあるが、多目的ダムは3分の1以下にとどまる。台風19号のように記録的な大雨となりそうな場合、「ダムがあれば洪水の心配はない」と考える人は多いようだが、ダムによって用途や水をためる能力が大きく違うことをまずは認識してほしい。30年以上前に建設された古いダムの中には、最近のダムのように底部に洪水放流用ゲートが備えられておらず、放流能力が劣るものが多い。現在、かさ上げ工事やトンネル式放流設備の増設などの「ダム再生」が進んでいる。十分な投資を期待したいが、予算と人員の制約があり整備には時間がかかる。
そこで重要になるのが、降雨量や洪水量の予測精度向上、ダム運用ルールの策定などのソフト対策だ。2018年7月の西日本豪雨では、ダムの容量を超える恐れがある場合に、流入した水をそのまま放出する緊急放流が多くのダムで行われた。予想以上の雨量で満水になり急な放流を余儀なくされ、犠牲者を出してしまった。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のプロジェクトでは、10日以上前から複数の降雨パターンを予測し、ダム操作の高度化を図る技術開発を進めている。降雨量が非常に大きくなるパターンや、あまり降らないパターンを解析できれば、ダムが満水になる確率や、事前放流後の水位の回復確率を計算しながら、ダムの水位をどれだけ下げるべきか判断しやすくなる。
台風19号の降雨量などの検証結果も盛り込んで開発を急いでいる。予測精度が高まれば、下流の利水者は安心できるだろう。西日本豪雨では、ダム管理者と利水者の間で放流に関する取り決めがないところが多く、緊急放流の判断を難しくした。平時に協議の場を設けて、運用ルールを策定すべきだ。ダムの立地や下流の土地利用に応じて、様々なルールがあっていい。台風19号では西日本豪雨の教訓を踏まえた変化もあった。西日本豪雨では緊急放流の通告が実施直前で、身動きが取れない人が多く発生した。今回は6時間以上前に予告したことで、自治体関係者が速やかに防災対応し、住民が避難するための一定の時間を確保することができた。結果として放流に至らなかったケースもあったが、早めの情報発信は評価できる。
大雨時のダムの役割は人を助けることと、経済被害を最小化することの2点だ。どんなダムでも全ての水をためることはできない。ただし、満水になった場合も洪水を遅らせる効果は発揮している。今回のように予告情報が出されたら、最後の避難のチャンスと思って住民一人ひとりが命を守る行動を取ってほしい。西日本豪雨や台風19号で被害にあっていない地域でも、いつ台風が猛威を振るうか分からない。危機感を持ち、この機会にダムの役割に目を向け議論を加速させてほしい。

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